「うちの庭のバーベキューに招待するよ!」
笑顔の家主さんにそう言われ、少々困惑する無鉄砲姉妹。
だってここ、お庭ないですよね……??
アパートタイプの一階が、家主さんの住居だ。そして、私たち二人はその客室を借りている。
外に出れば、目の前に可愛らしい小さな公園があるし、もう少し行けば大きな公園がいくつかあるのは知っている。とはいえ……
庭なんて、どこにもないぞ……??
不思議に思うが、「30分後に出発でいいかな?」という家主さんの言葉で、どうやら庭はどこか別の場所にあることに気づいた。
そうして30分後……まさかの、U-Bahn(地下鉄)に乗車である。
えっ、徒歩圏内ですらないの!? という驚きを感じつつ、道すがら、家主さんと奥さんからこの「庭」についての話を伺った。
どうやらこの庭はクラインガルテン(Kleingarten、直訳すると「小さな庭」)と呼ばれるもので、ドイツで既に長い歴史を持つ農地の賃借制度とのこと。
農地と言っても別に大きな畑を郊外に所有するとかではなく、市内の一角にこのクラインガルテンの集合地みたいなのがあって、その一画を市から借りているのだそう。
目的の駅で降り、少しだけ歩くと、そのクラインガルテンの集まっている場所に着いた。
この可愛らしい小径の垣根に一定間隔で小さなドアが取り付けられており、どうやらそれらのひとつひとつがどこかの家族のクラインガルテンになっている模様。
そのうちのひとつの前で家主さんが止まり、鍵を開け、中へ。
そして思わず、感嘆の声を上げてしまった。
ひ……広い。そして、気持ちいい……っ!!
普通に家一軒が余裕で建てられる広さの土地に、小さな小屋がふたつとグリーンハウスがひとつ。
葡萄の木や林檎の木もたくさん生えていて、その下には可愛らしいブランコまで!
都市部ではアパートが多く、個人の庭を所有することが難しいことも多いため、都市の中心地から少しだけ離れた場所をこうしてクラインガルテンとして市民に貸し出すのだそうだ。
ガーデニングを通して市民の身体・精神両面へのよい影響を期待するとともに、子どもたちが自然に触れ合う機会、隣人や友人たちとの交流にも繋がることが期待されているようである。
……素晴らしいじゃないか、クラインガルテン!
日本にも、めちゃくちゃほしい。と思ったら、どうやら日本でもこのクラインガルテンなるものが存在するようだ。ドイツほどの広がりを見せるのは難しいかもしれないが、日本でも流行ってほしいところだ。
素敵な庭の中を案内していただいたあと、大きなお魚のバーベキューをいただいた。これがもう、めちゃくちゃ美味しかった。
その際に、このクラインガルテンについてさらに教えていただいたのだが、年間での賃料が5万円弱程度と、恐るべき破格!!
いっそもうここを5万で借りてずっと住みたいとか思ってしまったが、小屋には泊まれるものの1,2泊以上の長期宿泊は認められていないようなので、住むことはできないらしい(そりゃあそうか)。
なお、貸与期間はおよそ30年で、借りるときの条件や細かなルール、コミュニティーへの奉仕活動への参加などが義務づけられるようだが、家主さんの話ではそれほど大変ではないとのこと。
それよりも、広い土地でのんびりと家族でガーデニングを楽しんだり、仕事終わりにふらっと寄って庭を見ながらビールを飲んだり、友人たちを招いてバーベキューをしたりできるこのクラインガルテンをとっても気に入っているそうだ。
最後に、家主さんは私たちに急に鍵を渡してくれた。何かと思えば、この庭への合鍵だそうだ。
なんとこの合鍵で、「好きなときにいつでもこの庭に来ていいよ」とのこと!!
……めちゃくちゃ優しい。
わりとシャイな私たちが二人だけでここに来ることはあまりなさそうだが、そんな憩いの場としているお庭にいつでも入っていいよと言ってくれる家主さんの優しさが心に沁みた、無鉄砲姉妹なのだった。