ヨーロッパ大陸最古の鉄鎖橋 ケッテンシュテークを堪能した私たちは、そこから歩いてすぐにある、次の観光名所へ!
ニュルンベルク最古の石橋マックス橋の歴史
ケッテンシュテークの上から町の中心部のほうへ目をやると、すぐ目の前に大きな橋があることに気づく。これがニュルンベルク最古の石橋、マックス橋(Maxbrücke)だ!
このマックス橋は1457年にローテンブルクの建築士であるヤーコプ・グリム(Jakob Grimm)によって建設されたもの。
(グリム兄弟のお兄ちゃんのほうと同じ名前!)
当初は単に石橋(Steinerne Brücke)と呼ばれていたが、1810年にバイエルン王マクシミリアンⅠ世に敬意を表して「マックス橋(Maxbrücke)」と改名された。
ちなみにこのバイエルン王マクシミリアンⅠ世は、ノイシュバンシュタイン城を作ったことでも有名なあのルートヴィヒⅡ世の曾祖父だったりもする。
それにしても、ニュルンベルクは観光名所が旧市街地にテーマパークのようにぎゅっと集まってるな。それぞれの観光名所から観光名所を眺めて美しいなんて、すごく贅沢だ。
そしてこのマックス橋のすぐそばにはもうひとつ、とても有名な観光名所がある。それが、ヘンカーシュテーク(Henkersteg)である。
死刑執行人の橋!? 恐ろしくも美しき、ヘンカーシュテーク
マックス橋から、ケッテンシュテークのあるほうとは逆を見れば、すぐにこの美しい建物が目に入る。
もともとはワイン倉庫だったためWeinstadelと呼ばれているこの建物の隣には少し高めの貯水塔(Wasserturm)があるが、その下のほうに橋が架かっているのが見える。
これが、ヘンカーシュテーク(Henkersteg)である。
ドイツ語のHenkerとは絞首刑執行人、死刑執行人を意味し、つまりこの橋は「死刑執行人の橋」という、なんとも恐ろしい名がついている。
というのも……上の写真だとわかりづらいが、下の写真を見ていただくとわかりやすいかもしれない。
これはiPhoneのパノラマ撮影なので少しバランスはおかしいが、実際にはHenkerstegはこんな感じでペグニッツ川の上に架かっている。
この写真の真ん中あたりにある、円錐の屋根のある建物がHenkerturm、つまり死刑執行人の塔だ。
さて、このHenkerturmがペグニッツ川の真ん中あたりにわざわざ建てられているのには、ある理由がある。
中世における死刑執行人の立場
現代の私たちでも「死刑執行人」という言葉を聞くとなんとなく恐ろしく感じるが、中世ヨーロッパにおいて死刑というのは比較的身近に存在した。
というのも、当時は都市内で起こった犯罪はその都市の中で解決するのが普通であり、重犯罪を犯して死刑判決を受けた場合、その都市の死刑執行人によって刑が執行されることになった。
つまり、各都市には「死刑執行」を職業とする人間が存在したのである。
もちろんこれはひとつの「仕事」であって「職業に貴賎なし」であるべきだが、実際問題として「人を殺すこと」を仕事にしている人間にある種の忌避感を人々が感じてしまうのは、仕方のないことだった。
そのため、「死刑執行人」の多くは都市の中で孤立し、住居なども分けられた。
ニュルンベルクの死刑執行人もその例にもれず、橋の上、つまりほとんど川の上という特殊な場所に部屋を持ち、そこで生活していたのだ。
また、死刑執行人の住んでいるそばには住みたくないという人が多かったせいで地価が下がったのだろう、この周辺には貧しい人たちばかりが集まって住んでいたという。
与えられた役割を真面目にこなしていただけなのに人々から忌避されるなど、当時の「死刑執行人」の心情を思うとなんとも切ないものがある。
なお、ここには現在「Henkerhaus(死刑執行人の家)」というミュージアムがあり、当時の貴重な史料などをみることができるようだ。
興味のある方には是非足を運んでいただきたい。
秋のマックス橋とヘンカーシュテーク
歴史の少し暗い部分に触れて切ない気持ちになってしまったが、現在のこの場所はただとにかく美しく、町の中心部から少し外れているためにとても静かで、ゆったりとした時間の流れている素敵な場所だ。
秋になると紅葉も美しく、ケッテンシュテークからマックス橋、そしてこのヘンカーシュテークと、三つの歴史ある橋を渡りながらニュルンベルクの黄金の秋を堪能すると、とても心穏やかになれる。
5,6月がドイツのもっとも美しい時期だとよく言われるが、秋のドイツというのはすべてが金色に輝いてまた格別の美しさがあるので、秋に撮影したこの場所の様子も少しだけ先取り。
賑やかな街の中心を楽しんだ後にほんの少しだけ足を延ばし、ニュルンベルクの静かな美しいもうひとつの姿を楽しめるというのは、なんと贅沢な時間だろうか。